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<インタビュー> 旭川医科大学 佐藤康史先生

「誰かの役に立つために」
~ 実用化に向けたプロセスの考え方を学びつつ、一貫して再生医療に携わる仕事をしてきました ~

— ライフサイエンス研究を仕事にしようと思ったきっかけを教えてください。
 これというきっかけはありませんが、昔から実験が好きで、実験をして何か新しいことを探求していくことに面白さを感じたので、研究の世界に入ったのだと思います。もとから医療に興味はありましたが、医薬品合成などを学びたいと思ったため、学部生の時は応用化学科に在籍していました。あまりライフサイエンスに馴染みがありませんでしたが、大学生の頃にiPS細胞の発明が話題となり再生医療が注目され始めた時期であったため、徐々に細胞や生物に面白みを感じるようになりました。そのような流れもあり、研究室配属の際には動物細胞を扱っていて再生医療に関わることのできる研究室を選びました。

― これまでの経歴を教えてください。
 研究室配属以降、再生医療に関わる研究を仕事にしたいと思い、博士課程まで進学しました。研究成果を世の中にだすという出口のところを学んでみたかったため、最終的にどうなるかは別にして、博士取得後は一度企業で働きたいと思っていました。ただ、なかなか就職先が決まらず、ご縁もあり神戸の先端医療振興財団 (現神戸医療産業推進機構)のポスドクに採用されました。卒業直前の3月に次の行き先が決まるというあまり見本にしてはいけないような感じですね(笑)。ここでは基礎から臨床への橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)や産学連携を積極的に取り組んでおり、基礎研究の成果をどのように実用化していくのかを学び、私自身の中で非常に重要な経験となっています。その後、大企業とベンチャー企業それぞれで約2年間働いていました。どちらでも再生医療に関連した研究をしていたのですが、大企業と創業したてのベンチャー企業の両方で、「研究成果を製品化する」という基礎研究とは違った経験をすることができました。そして、2020年3月に今現在所属している旭川医科大学に移ってきました。研究所、大企業、ベンチャー企業を経て今は大学に戻ってきたわけですが、実用化に向けたプロセスの考え方を学びつつ、一貫して再生医療に携わる仕事をしてきているなと感じています。もともとは細胞を扱った実験しかしてきませんでしたが、様々な経験を積んできたおかげで実験手技も学ぶことができ、現在では動物実験で手術もできるようになりました。

— 色々な立場で研究に携わってこられていますが、大学、大企業、ベンチャー企業でそれぞれ違いや特色はありましたか。
 機関によって色々違いはあると思いますが、大学や研究所といったアカデミアと企業という枠で考えると、アカデミアは研究のシーズを作る 0 → 1、新しい技術開発をやっていく組織であり、新しいことに取り組んでいくことが役割です。一方企業では、基礎研究以外に製品化した際に利益を生みだせるか、製造体制や品質の管理、担保といった学術研究とは違うところも大事になります。いい研究であっても企業が求める規格を大学だけで満たすことはとても難しく、”魔の川・死の谷”というのはこういったところなのかな、と感じつつあります。

日本発の技術を実用化し、アンメットニーズを満たしていきたい

― 現在の研究内容について教えてください
 組織工学の技術を生かした再生医療や医療機器の開発に取り組んでいます。皮下に型を入れてそこで自己組織由来の人工心臓弁を作製し、悪くなった心臓弁を置換することで治療するという研究を行っています。この人工弁は自己組織でできているため免疫拒絶がないこと、移植後に身体に馴染み徐々に組織が置き換わることで劣化しづらいことや成長する可能性があるといった特徴があります。この特徴は特に小児に有効と考えており、将来的には心臓病の子供を治療できるようにしたいと考えています。この他にも、重症肺炎のECMO装着下での新規治療法の開発や身体の中に材料を入れた際に集まる細胞や生じる反応の解析といった基礎的な研究も精力的に行っています。これらの研究はラボメンバーの他、臨床の先生、材料を提供してくれる企業などと協力して取り組んでいます。
 最終的には今取り組んでいる研究成果を社会実装し患者様に届けるなど、アンメットニーズを満たせるものにしていきたいと考えています。社会的意義の他にも、日本では医療機器は輸入過多になっているため、日本発の技術を実用化することができれば、経済的にもメリットがあるのではないかと期待しています。

若い時こそ、失敗を恐れずどんどん突き進んでみる!

― 学生や若手研究者へのメッセージをいただけますか。

 私自身まだキャリアとしては若いほうだと思うので自分への戒めとかも含めて考えると、好奇心があって体力があるときにハードワークというか、本当に一生懸命やっていろいろ探求していくことが非常に重要かなと思います。何回も何回も失敗してやっと一つの結果がでる。狙った結果が1回で出ることはまずないので、失敗を気にせずどんどんやってみることが研究において重要だと思います。失敗から学ぶというか、予想もしない結果から新しい発見が生まれることもあると思います。もう一つは「人との繋がり」を大切にすることでしょうか。キャリアを積んでいく上で人脈は重要になります(私自身も様々な人に支えられて、現在に至っています)。学会やイベントに参加した際は積極的に交流してみてください。あとは、何でしょう。。。研究に忙しいように見える学生時代ですが、実を言うと拘束されているようで拘束されてないみたいなところがあると思います。そういう意味でも、本当に興味あることがあれば何でもどんどんやっていくことが楽しくもあり重要ではないでしょうか。私自身、これまでは海外で仕事をする機会がなかったので、今後一度は海外で仕事をしてみたいと強く思っています。

 その過程でどのような人生になるかわかりませんが、何か一つ、自分で成し遂げたと言える、誇りになるような仕事ができれば嬉しいと思っています。

― オフの時など、休日の過ごし方を教えてください。

 現実的なことを言うと研究室に来ている日もあります。ただ、「仕事をする」というよりも、研究のアイデアなどを「ゆっくりと考える」時間にしています。時間に余裕があるときは、家でゆっくりする日を作ったり、フラッとどこかに旅行に行くなど、仕事から離れて頭をリフレッシュする日を作ったりしています。忙しくなると目の前の仕事に追われてしまい、考える時間が無くなってしまうので、気持ちを切り替える時間を作るようにしています。また、体を動かすことも重要と考えており、柔道を学生時代から続けています。今でも時間を見つけて高校や大学に練習に行っています。心と体の両方を充実させることが大事だと思っています。

― 完 ―

<佐藤先生のプロフィール>
現所属 : 旭川医科大学先進医工学研究センター 助教
略歴 :
2015年 北海道大学大学院総合化学院 総合化学専攻 博士課程修了
2015年 先端医療振興財団 (現神戸医療産業推進機構) 先端医療研究センター 博士研究員
2016年 株式会社カネカ
2018年 バイオチューブ株式会社

<記事作成者>
インタビュアー :  R.N.
編集者 :  K.H.